「文章で人の心を動かしたい」「書くスキルで稼げるようになりたい」と思ってはいるものの、いざパソコンを前にすると一行も書けずに手が止まってしまう。
多くの人が、この「書けない」という悩みを、自分には文才がないからだと結論づけてしまいます。
今回ご紹介する藤吉豊氏の著書『文章力が、最強の武器である。』は、そんな才能やセンスといった曖昧な言葉から私たちを解放してくれる一冊です。
本書の核心は、「伝わる文章は、後天的に習得可能な『技術』である」ということです。
この記事では、私自身のコピーライターとしての経験則も踏まえて、同書の中から、
- 文章力を飛躍させるために不可欠な3つの視点
- 明日から実践できる具体的な技術
を要約・解説していきます。文章は武器であり、その使い方は誰でも学ぶことができる。そんな藤吉氏の力強いメッセージをあなたにも感じ取っていただけることを願います。
上手い文章とは「3つの要素」の組み合わせである
私たちは「上手な文章」と聞くと、どこか漠然とした、才能ある人だけが書ける特別なものだと考えがちです。しかし本書は、その正体を極めて具体的に3つの要素に分解して見せます。
- おもしろさ(コンテンツ)
- わかりやすさ(ロジック)
- 読みやすさ(ルール)
おもしろさ(コンテンツ)
まず「おもしろさ」とは、読者の知的好奇心を満たす「役立つ情報」や「新しい気づき」のこと。読者は美しい文章を読みたいのではなく、自分の知らないこと、ためになることを知りたくて文章を読みます。
ここでのポイントは、読者が「悩み・願望を解消できる「まだ知らない情報」「意外な情報」を書くことです。
たとえば、検索エンジンからこの記事に辿り着いた人であれば「『文章力が、最強の武器である』の要約を知りたい」という知的ニーズがあると考えられます。その人たちにとってはこの記事では知的好奇心を満たせるかもしれませんが、そうでない人にとっては面白いとは感じない可能性があります。
ただし、「生存・繁栄(性的)」など人間の本能に根ざす話であれば、それが「真新しいもの・意外なもの」である限り、ほとんどの人にとって「おもしろい文章」として受け止められる傾向にあることは覚えておいて損はないでしょう。
わかりやすさ(ロジック)
次に「わかりやすさ」とは、矛盾や飛躍のない「論理的な正しさ」を指します。思いつくままに書かれた文章は、書き手自身も気づかないうちに論理が破綻し、読み手を混乱させてしまいます。
読者
「集中力を高めるには、どうしたらいいですか?」
書き手(非論理)
「集中したいときに集中することです。」
→いわゆる非論理の極致にあると言われる「禅問答」風ですが、答えになっていない。
論理的に直すと
「集中力は起床後すぐ、脳のエネルギーが充実している時間に最大化します。だから午前中の90分を「通知を切った静かな環境」で作業すると自然と集中力を高められます。」
つまり、人を動かす文章とは、才能やセンスの産物ではなく、「読者の役に立つ内容を、論理的な順序で、読みやすい表現を使って伝える」という技術の組み合わせなのです。この視点を持つだけで、文章を書くという行為は、暗闇の中を手探りで進むような作業から、明確な地図を頼りに目的地を目指す旅へと変わります。
読みやすさ(ルール)
最後に、「読みやすさ」です。これはある文章をはじめて目にしたときの「第一印象」と、その後実際に読み進めて行く際の「第二印象」の2つから形成されます。
第一印象であれば、一文の長さがなるべく短く、改行が適度にされているか。難解な漢字が使われておらず、かつ、漢字とひらがなのバランスが取れているか、など、内容以前の「見た目」の問題。
第二印象であれば、誤字脱字がないことはもちろん、途中でつっかえることなくテンポよく読めるリズム感があるか、など、「文体」の問題に分類できます。
以下は上記の文章から「。(句点)」を取り、全文を1つにまとめたものですが、内容以前に、読む気も失せるほど「読みにくい」と感じるのではないでしょうか。
最後に、「読みやすさ」ですが、これはある文章をはじめて目にしたときの「第一印象」と、その後実際に読み進めて行く際の「第二印象」の2つから形成され、第一印象であれば、一文の長さがなるべく短く、改行が適度にされているか、また、難解な漢字が使われておらず、かつ、漢字とひらがなのバランスが取れているか、など、内容以前の「見た目」の問題であり、第二印象であれば、誤字脱字がないことはもちろん、途中でつっかえることなくテンポよく読めるリズム感があるか、など、「文体」の問題に分類できます。
このように同じ内容を伝える場合でも、「文章の見た目」や「文章のリズム感」により、読みやすさは大きく変わります。
読みやすい文章を書くポイントとしては、以下の2つのポイントが効果的です。
- 一文をなるべく短くすること
- 語尾にバリエーションを持たせること
この2つを意識するだけでも格段に読みやすい文章になるので取り入れてみてください。
ありふれたテーマで独自性を生む思考法
先ほどすこし触れましたが、著者の表現を借用しながら、改めてこの疑問に丁寧にお答えします。
まず著者は、「100点の文章」の内訳を「内容80点:書き方20点」だと断言します。
読者が本当に知りたいのは、巧みな比喩や美しい言い回しではなく、その文章に何が書かれているか、という「中身」そのもの。ジャーナリストの池上彰氏も、面白くない文章の原因は表現力以前に「作者自身が『これから何を書くか』をはっきりとわかっていない」ことにあると指摘しています。
では、その価値の8割を占める「内容」のおもしろさ、特に「独自性」はどこから生まれるのでしょうか。
本書が示す答えは、「自分の体験とひも付ける」ことです。
例えば、「早起きは大切だ」というテーマは、誰もが一度は聞いたことがあると思います。しかし、美容室「EARTH」の取締役である山下誠司氏は、このテーマを自身の強烈なエピソードで語ります。
上記のエピソードは、山下さんにしか語れない唯一無二のものです。だからこそ、「早起きは大切だ」というありふれた教訓が、聞き手の心に深く刻まれるのです。
私たちも同じです。革新的なアイデアや誰も知らない情報がなくとも、自分が実際に体験したこと、失敗したこと、その時どう感じたかを具体的に書くだけで、文章は自然と独自性を帯び始めます。
ありふれたテーマを扱うときこそ、「このテーマについて、自分は何を体験しただろうか?」と自問してみてください。その個人的な物語こそが、読者の心を動かす最も強力なコンテンツになるのです。
誰でも論理的な文章が書ける「魔法の型」
価値ある「内容」が見つかっても、それをどのような順番で伝えればいいのか分からず、筆が止まってしまうことがあります。
本書は、この「構成の悩み」もまた、才能ではなく「型」で解決できると教えてくれます。
書き慣れていない人の文章が分かりにくいのは、頭に浮かんだことを思いつくままに書き連ねてしまうから。
つまり論理展開が破綻していることが主な原因です。
しかし、あらかじめ決められた「型」に沿って情報を配置していくだけで、誰でも驚くほど分かりやすい文章を書けるようになります。
本書ではいくつかの型が紹介されていますが、中でも特に強力で、読者の行動を促したい場面で絶大な効果を発揮するのが「PREP法」です。
PREP法とは、以下の順番で文章を構成する型のことです。
- P (Point):結論
- R (Reason):理由
- E (Example):具体例
- P (Point):結論(再提示)
まず「結論」から話すことで読者は文章の全体像を瞬時に把握できます。次にその「理由」と「具体例」を示すことで、主張への納得感と信頼性を高めます。そして最後に、もう一度「結論」を繰り返すことで、最も伝えたいメッセージを読者の記憶に強く刻み込むのです。
この型は、心理学的に見ても非常に合理的です。最初に提示された情報(初頭効果)と、最後に提示された情報(親近効果)は記憶に残りやすいという性質を、巧みに利用しているからです。
例えば、インフルエンザの予防法について伝える場合、次のように構成できます。
このように、PREP法を使うことで、主張が明確になり、説得力が飛躍的に高まります。
商品やサービスを紹介する文章や、誰かに何かを提案する文章を書くときには、ぜひこの型を試してみてください。
読者の「読むストレス」をゼロにする、読みやすい文章の技術
素晴らしい「内容」を、論理的な「構成」で組み立てたとしても、最後の関門が残っています。それが「読みやすさ」です。
読者は、少しでも「読みにくい」「疲れる」と感じた瞬間に、ためらうことなくページを閉じてしまいます。この読者のストレスを限りなくゼロに近づけるために、本書は2つの具体的な技術を提示します。
一つ目は、「短い文」を積み重ねることです。
文章が読みにくくなる最大の原因は、一文が長すぎること。著者は「文章の基本は、『短い文』を積み重ねること」であり、その目安として「1文の長さを60文字以内にする」「1文1意(1つの文に1つのメッセージ)にする」というルールを掲げています。
伝えたい情報を最小単位まで分解し、短い文としてテンポよく提示すること。これが、読者をスムーズに文章の最後まで導くための基本となります。
二つ目は、「見た目の印象」を整えることです。
私たちは文章を「読む」前に、まず「見て」います。文字がぎっしりと詰まった文章は、それだけで読者に圧迫感を与え、読む気を失わせてしまいます。
これを解決するのが、「改行」と「空白行」による余白の創出です。内容の区切りが良い箇所で適度に改行し、話題が変わるタイミングで空白行を挟むだけで、文章の視認性は劇的に向上します。
また、読みやすい文章の黄金比として「漢字3割:ひらがな7割」というバランスを推奨しています。漢字が多すぎれば硬く難解な印象になり、ひらがなが多すぎれば稚拙で締まりのない印象になる。このバランスを意識して言葉を選ぶことで、文章は視覚的にも洗練され、読者の目線を滑らかに誘導することができます。
これらの技術は、決して小手先のテクニックではありません。読者の負担を少しでも軽くしようとする、書き手の「おもてなし」の心そのものです。内容と構成へのこだわりと同じくらい、この読み手への配慮に心を配ることが、最後まで読んでもらえる文章の最後の鍵となるのです。
まとめ
今回は、藤吉豊氏の『文章力が、最強の武器である。』を元に、誰もが人を動かす文章を書くための技術を解説してきました。
- 上手な文章は、才能ではなく「おもしろさ」「わかりやすさ」「読みやすさ」の3要素で構成される技術である。
- 価値の8割を占める「内容」は、自身の一次体験と結びつけることで独自性が生まれる。
- 論理的な「構成」は、PREP法などの「型」に当てはめることで誰でも作れる。
- 読者の負担を減らす「読みやすさ」は、「短い文」と「見た目」への配慮から生まれる。
本書が一貫して伝え続けるのは、「文章力は特別な能力ではなく、正しい手順を知れば誰でも身につけられる武器である」というメッセージです。
もしあなたが今、「自分には書く才能がない」という無力感を抱いているなら、それは決して違います。文章への考え方・向き合い方でこれからいくらでも挽回できます。
本書は、その武器を手に取り、磨き上げ、人生を変えていくための極めて実践的な取扱説明書です。ぜひ一度手に取り、あなたの文章に取り入れてみてください。
あなたの「書く力」が確実に高まり、成果とともにご自身のライティング力への自信が培われていくはずです。