【要約・実践版】『「ことば」の戦略』に学ぶ、人生の主導権を握る7つの言語トリガー

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言葉には、人の行動を変える力があります。

同じ内容、メッセージを伝えているはずなのに、ある人の発信は多くの人に影響を与え、別の人の発信は誰にも響かない。何がこの違いを生んでいるのでしょうか?

ペンシルベニア大学ウォートン校のマーケティング学者ジョーナ・バーガーは、その違いを徹底的に研究し、『「ことば」の戦略(MAGIC WORDS)』という一冊にまとめました。

本書は「たった1語が、人の思考や行動を変える」ことを実証研究で明らかにしています。

私自身のこれまでの10年以上にわたるコピーライターとしての経験からも、古今東西の優れたライターたちがやっていながらも、なかなか言語化されることのないポイントが、見事に解説されていると感じました。

この記事では、本書で解説している「7つの原理」を取り上げます。コピーライティングや教育、ビジネス、日常の会話に至るまで、言葉の使い方を少し変えるだけで、人間関係も成果も大きく変わっていくはずです。

それでは、最初の原理から見ていきましょう。

原理1:「名詞」で語りかけ、相手のアイデンティティを動かす

「嘘をつくな」よりも「嘘つきになるな」のほうが効果的だ。
『「ことば」の戦略』 (ジョーナ・バーガー 著)

「嘘をつくな」と言われるよりも、「嘘つきになるな」と言われた方が、私たちは強く意識します。

バーガーは、名詞で人を呼ぶことがアイデンティティを強化し、行動を方向づけると説明します。名詞は単なる行動の指示ではなく、「自分はこういう人間だ」という自己像に直結するからです。

たとえば選挙において、「投票に行ってください」と呼びかけるよりも、「有権者として行動してください」と呼びかけた方が、投票率が高まることが実験で示されています。

人は「一時の行為」よりも「自分の属性」に影響を受けます。だからこそ、名詞化は強力なのです。

こうした言葉の違いは、単なるニュアンスの差ではなく、行動の確率を大きく変えていきます。

コピーライティングなどの実務的な観点でいえば、読者にとってほしい行動を促す際に「〜をしてください」と直接的に明示するだけでなく、「あなたのような行動力のある人ほど確実に成果を出せます」など、事前に名詞ラベルを貼っておき、その上で、行動喚起と組み合わせていく手法が効果を発揮しやすくなります。

原理2:「できない」を「しない」と宣言する

自分の名前や「あなた」を使って外部の視点で自分に話しかけたグループのほうが、スピーチの得点が高かった。
『「ことば」の戦略』 (ジョーナ・バーガー 著)

私たちは、日々の生活の中で「自分への声かけ」を無意識に行っています。これを心理学では「セルフトーク」と呼びます。

バーガーが示す重要なポイントは、そのセルフトークを「一人称」ではなく「二人称」に切り替えることです。つまり「私はできる」ではなく、「あなたはできる」と自分に呼びかけるのです。

一見すると不思議な方法に思えるかもしれません。しかし、研究によれば二人称で自分を励ますと、ストレス状況でも冷静さを保ちやすく、パフォーマンスが向上することが分かっています。

たとえば大事なプレゼンの直前。「私は緊張しているけれど、やれる」とつぶやくよりも、「あなたは準備してきた。だから大丈夫だ」と語りかける方が、心が落ち着き、集中力が増すのです。

なぜこれほど効果があるのでしょうか。それは「あなた」と呼びかけることで、自分を少し客観視できるからです。まるで信頼できる友人からアドバイスを受けているような感覚が生まれ、自分を冷静にコントロールできるのです。

この原理は、日常のセルフマネジメントにも応用できます。運動を習慣化したいとき、誘惑に負けそうなとき、目標に向けて踏ん張りたいときなど、二人称セルフトークを取り入れるだけで、ぐっと続けやすくなります。

言葉の切り替えは小さな違いに見えます。しかしその積み重ねが、行動の安定や成果の差を生むのです。

当然、ことばは他者だけでなく、自分自身も動かすことができる技術です。その際の重要なポイントが「自分を客観視」するということですね。「私はできる」→「あなたはできる」に変えてみる。これは理屈ではなく体感してこそ理解できます。ぜひ、一度、試してみてください。

原理3:ヘッジを捨て、断定が信頼を生む

自信を伝えたければ、ヘッジを避けよう。
『「ことば」の戦略』 (ジョーナ・バーガー 著)

私たちは、無意識のうちに「〜だと思います」「おそらく〜でしょう」といった曖昧な表現(ヘッジ)を使い、断定を避けてしまいがちです。しかし、聞き手は、話し手が自信を持っていると感じるほど、その内容を信頼し、説得される傾向があります。

投資アドバイザーを選ぶ実験では、予測の正確さが同じでも、より断定的な言葉を使うアドバイザーが4分の3の参加者に選ばれました。

自信のある態度は、それ自体が「信頼できる」という強力なシグナルを発します。もちろん、不確かなことを断定するのは欺瞞です。しかし、自分が確信していることまで曖昧に表現する必要は全くないのです。

あなたの文章から「〜だと思います」という言葉を意識的に排除してみましょう。「この記事は面白いと思います」ではなく、「この記事は面白いです」と断定するのです。読者は、書き手の迷いではなく、確信についていきたいのです。もちろん、誠実さは不可欠です。しかし、あなたが本当に価値があると信じるならば、その言葉に責任と確信を乗せること。その力強さこそが、読者の心を動かします。

原理4:「問い」で心を動かす

フォローアップ質問が多い人ほど、2回目のデートに誘われる可能性が高かった。
『「ことば」の戦略』 (ジョーナ・バーガー 著)

すこし前に「聴く力」や「質問力」という言葉が注目を集めていました。

バーガーが示すのはもっと具体的で科学的なアプローチです。

彼が強調するのは、質問は単なる情報収集の手段ではなく、信頼関係を築き、相手の心を開かせるための強力な武器になるということです。

たとえば初対面の会話でも、当たり障りのない質問で終わってしまう人と、核心に触れる質問を投げかけられる人とでは、相手の印象がまったく違います。

特に効果的なのが「フォローアップ質問」です。これは最初の質問に対する相手の答えにもう一歩踏み込んで質問を重ねることで、相手は「この人は本当に自分の話を聞いてくれている」と感じ、自己開示が深まっていきます。

初対面の男女の会話を分析した研究では、外見や趣味の一致以上に、フォローアップ質問の頻度が次のデートに繋がるかを左右していました。相手が「旅行が好きです」と言ったら、「今までで一番心に残っている旅先はどこですか?」と返す。この一言が、相手に「この人は本当に私の話に関心を持ってくれている」と感じさせ、心の距離を縮めるのです。

次にあなたが文章を書くとき、1つ目の質問のあと、すかさず、さらに内面を深掘りをする2つ目の質問を投げかけてみましょう。

たとえば「あなたは、記事を投稿しても読者からの反応がないことにがっかりしたことはありませんか?」「その時、他の人は上手くいっているようなのに、なぜ自分はダメなんだろう…と自分を否定するような気持ちになったりしていませんか?」とより深く心に入り込んだ質問をしてみるイメージです。

原理5:「具体と抽象」WhyとHowの切り替え

抽象的なことばが、パワーやリーダーシップが存在する信号となり、スタートアップが資金を集めるのに役立つのはなぜだろうか。
『「ことば」の戦略』 (ジョーナ・バーガー 著)

私たちは、普段の会話や文章で「なぜ(Why)」と「どうやって(How)」を無意識に使い分けています。バーガーが示すのは、この切り替えを意識的に使うことで、相手の理解や行動が大きく変わるということです。

まず「Why」は、人に意味や目的を与えます。たとえば「なぜ英語を学ぶのか?」という問いは、相手の動機や価値観を引き出し、長期的な行動の源泉になります。

逆に「How」は、具体的な実行方法を明らかにします。「毎日10分、英語のフレーズを音読する」といった具体化がなければ、行動は始まりません。

たとえば、顧客サポートのように、相手の不安を取り除き、安心感を与えたい場面では、「問題を解決します」という抽象的な言葉より、「商品の不具合修理します」という具体的な言葉が効果的です。

一方で、スタートアップが投資家を口説く時や、リーダーがビジョンを語る時には、「市場を創造する」といった抽象的な言葉が、聞き手の心を捉え、未来への期待感を抱かせます。

コピーライティングでは「興味(感情)」→「具体的な行動喚起」の順番で示していくことがセオリーとされています。それはまさにここで示されている「なぜ(Why)」と「どうやって(How)」の使い分けに他なりません。

まずは「読む動機」を与えるために「なぜ(Why)」を語り、次に読者が取るべき行動を示すために「どうやって(How)」を語る。これは心理学的にも裏付けの取れている、非常に汎用性の高いフレームワークとして機能します。

原理6:「感情の起伏」を設計する

有能な人がたまにミスをすると、人間らしく見える。自分に近い、生身の人間として、より好感がもてるようになる。
『「ことば」の戦略』 (ジョーナ・バーガー 著)

人は理屈だけでは動きません。心を動かすのは、やはり感情です。バーガーは「感情のこもった言葉」が持つ力を多くの研究で示しています。

そのひとつが「しくじり効果」です。完璧な人よりも、少しだけ失敗や欠点を見せた人の方が親しみやすく、信頼を集めることが分かっています。

たとえばスピーチの途中で小さなミスをしたり、軽い失敗談を語る人に対して、思わず親しみを感じたという経験は誰しもにあるのではないでしょうか。

また、これが非常に大事なポイントなのですが、感情の起伏のあるメッセージは、人を引き込みます。

映画や小説のストーリーが「盛り上がり→落ち込み→再び盛り上がり」と展開するのと同じように、メッセージの流れに高低差をつける。そうすることで注意が持続し、記憶にも残りやすくなるのです。

例えば、レビューや口コミでも、単なる「良かった」ではなく、「最初は不安だったけれど、実際に使って安心できた」というように、感情の揺れを含んだ表現の方が、読む人に強く響きます。

ただし注意点としては、ポジティブ表現を乱発すると、かえって信頼性を損なうことがあるという点です。「最高!」「完璧!」と連呼すればするほど、受け手は冷めた目で見てしまうこともあります。

大切なのは感情の強度と確信度をバランスよく調整することです。

言葉に温度を宿すこと。それは派手に感情的になることではなく、適度な欠点や起伏、驚きを織り交ぜることです。そうすることで、相手の心に触れ、共有され、行動につながっていきます。

特にセールスレターや、動画プロモーションのような、長尺のメッセージを作る際には、「感情の起伏」が極めて重要なエッセンスとなります。ずっとポジティブ(理想未来の提示)、あるいはずっとネガティブ(問題や恐怖の煽り)では、読者の脳は麻痺しはじめ、次第に退屈さを覚え始めます。

意識的にでも「このメッセージは感情の起伏を作れているか?」と自分に問いかけ、ブラッシュアップしていく姿勢を持つことが大事です。

原理7:類似性が無意識の信頼を築く

言語スタイルが同僚と似ている従業員は、そうでない従業員よりも昇進する確率が3倍高かった。
『「ことば」の戦略』 (ジョーナ・バーガー 著)

私たちは、自分と似た人に親しみや安心感を覚えます。言葉の世界でも同じで、バーガーは「言語スタイルの類似性」が信頼や協調を生むことを示しています。

メールや会話で、相手の言葉づかいやリズムに自然と寄り添うと、関係性はよりスムーズになります。たとえば、相手がカジュアルな表現を好む人であれば、こちらも少しくだけた言葉を選ぶ。逆に、相手がフォーマルな場を重んじるタイプなら、こちらも丁寧な言い回しを心がける。こうした「合わせ」は、単なる気遣いではなく、無意識に「この人とは合う」と感じてもらえる要因になります。

さらに興味深いのは、ヒット作や人気シリーズにもこの原理が働いているという点です。まったく新しいものは人を遠ざけ、あまりにも既視感が強いものは飽きられます。

その中間にある「新しさと親しさのバランス」が、人を惹きつけ続けるのです。「馴染みのある安心感」と「新しい刺激」をきちんと設計することが、ファンを生み出し、維持する秘訣とされています。

類似性を演出できるのは何も「言葉づかい」だけとは限りません。あなたの価値観や信念、体験談、そうしたものを積極的に打ち出すことで、読者により深い「類似性」を感じさせていくことが可能になります。

もちろん、打ち出すメッセージが読者にとって「自分も似ている(同じだ)」と感じさせられるものである必要があることは言うまでもありません。それらをベースとした上で、スパイスとして「新しい体験」「自分なりの思索」を語ることが、ファンを生み出し、維持する秘訣であるということです

まとめー言葉を選ぶことは、未来を選ぶこと

ここまで『「ことば」の戦略』から、7つの原理を見てきました。

  • 名詞ラベルは行動を変える

  • セルフトークは二人称で自制を促す

  • 断定とヘッジのバランスが説得力をつくる

  • 質問は関係を深める鍵になる

  • WhyとHowの切り替えで理解と行動が進む

  • 感情を宿した言葉が心を動かす

  • 類似性が信頼を築く

どれも「ちょっとした言い回しの違い」に見えるかもしれません。しかし実際には、人の判断や感情を大きく揺り動かし、未来の行動すら変えてしまう力を持っています。

言葉は空気のように身近です。しかし、その選び方ひとつで人間関係も成果も変わります。だからこそ、私たちは「意識して選ぶ」ことが大切なのです。

あなたもぜひこの7つの原理のうちひとつでも実践してみてください。小さな工夫が、大きな変化のきっかけになります。

そして、「セルフトーク」の項目でも触れた通り、言葉を磨くことは、単に伝える力を高めるだけではありません。自分自身の思考を整え、未来を選び取る力を育てることにもつながります。

あなたが使うひとつひとつの言葉が、誰かの行動を変え、世界を少しずつ動かしていく。その実感を、ぜひ体験してみてください。

Q&A

名詞ラベルはなぜ行動を変えるのですか?

行為ではなく「属性」として語られることで、自己像に結びつきやすくなるからです。人は「自分はこういう人だ」と思う方向に行動を選びます。

二人称セルフトークにはどんな効果がありますか?

「あなた」と呼びかけることで自分を客観視でき、ストレス状況でも冷静さを保ちやすくなります。実験でも集中力と自制が向上することが示されています。

断定とヘッジ(断定しない)の最適なバランスとは?

専門知識や確実性が高い場面では断定を使い、不確実な領域や慎重さが必要な場面ではヘッジを加えます。両者を文脈に応じて織り交ぜることで、説得力と信頼が両立します。

Why/Howの切り替えはどう役立つのですか?

抽象的な「Why」を語ること読者に「話を聞く理由」「読む理由」を与え、具体的な「How」を語ることで、「どんな行動を起こせばいいか」を明確に伝えることができます。動機を高めて、行動を促す。これを自然に実現できるフレームーワークが「Why/Howの切り替え」です。

本記事はAIを用いて構成・下書きを行い、著者が内容・文体を編集して公開しています

この記事を書いた人
松方 澪
松方 澪 / Mio Matsukata
  • コピーライター / マーケター(歴10年/2014.10~)
  • 社員ゼロの法人代表
  • 宣伝会議コピーライター養成講座(基礎/上級) 修了