コピーライターの思考法に学ぶ、結果を出す人の「書く前」の戦略的プロセス|『ここで広告コピーの本当の話をします。(小霜和也 著)』要約とレビュー

NO IMAGE

時間とエネルギーを費やして文章を書いたにも関わらず、望むような結果を出せない。それ以前に、納得のいく文章を書き進められない。そんな経験はないでしょうか。

何を隠そう私自身、書けば書くほど深みにハマり、ろくなコピーが生まれず、地獄のような時間を味わった経験があります。

その根本原因は、文章の「内容」ではなく、言葉を生み出す手前の「思考プロセス」すなわち「戦略の不在」にありました。

この記事では、博報堂などで数々の成功キャンペーンを手掛けた小霜さんの著書『ここで広告コピーの本当の話をします。』をテキストとしながら、この課題を深く掘り下げてみたいと思います。

単なる「書き手」から、言葉を武器にビジネス課題を解決する「戦略家」へ。本書の核となるメッセージを理解することができれば、自分でも想像している以上の結果があなたの書く文章から生み出されるようになるでしょう。

その文章が「結果」を出せない、たった一つの根本原因

多くの書き手は、ろくに事前準備をすることなく、すぐにPCに向かい、文章を書きはじめようとします。しかし、これこそが多くのライターがはまりがちな「最初の罠」なんです。この罠にハマってしまうと、その後にどんなに頑張って書こうとしても、まず良い文章は書けません。

ここでいう「良い文章」とは目的を果たせる文章のこと。読者を感心させたり面白がらせたりするような文章のことではありません。

本書『ここで広告コピーの本当の話をします。』の著者、小霜和也(こしも・かずや)さんは、そうした『ろくに準備をせずに書き始める』という「コピーライターの取り組み方・在り方」を否定します。それでは単なる「作業者」だからです。

彼が提示するのは、コピーライターとはクライアントの「ビジネスパートナー」であり、「商品をいじらずに、言葉を使って商品の価値を上げる人」であるということです。

 
松方澪
言われたことをそのまま書くだけのライターは「下請け」。コピーライターはもっと上流の役割を担う存在です。
 

文章を書く以前に明確にしなければならないこと。それは、その文章が解決すべき「課題は何か」です。言い換えれば、目的を明確にするということ。

これこそがビジネス上の課題を解決するために、最も重要な「問い」です。

本書は、この『書く手前』にある「戦略構築」のプロセスを解き明かしています。

コピーを書く前に「9割の仕事」を終わらせる。著者が示す「価値」を生み出す思考プロセス

では、コピーライターは、「書く前」に一体何を考えるべきなのでしょうか。小霜さんは、まず以下の3つの要素を徹底的に考えることの重要性を説いています。

  1. 広告の目的(=モノとヒトとの新しい関係を創ること)を理解し、
  2. 競合を分析し、ターゲット(顧客)を深く理解することで、
  3. 商品の価値を最大化する「タグライン」を決定する。

コピー作業の中で、机に向かってペンを走らせる(あるいはPCに向かってキーボードを叩く)作業は全体の1割ぐらいと思ってください。その手前の「マーケティング的」作業、つまり「考える」が9割です。競合を調べ、商品のUSPを見極め、ターゲットを決め、彼らの欲求や不満、不安に思いをはせる。こういったことが「コピーを書く」ということの本質なんです。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

この「書く前に9割の仕事は終わっている」とも言える徹底した準備こそが、結果を出すための「王道の最短ルート」なのです。

「考える」プロセスの本質は、次の3つの問いに集約されます。

本当の「敵」は誰か?(競合の明確化)

広告企画においては、何よりもまず仮想敵を定め、その強さを知ることをしなければいけないのです。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

我々の「武器」は何か?(USPの発見)

商品自体に競合商品と比べた時の優位性があればターゲット(想定顧客)を探しやすくなるし、関係性も作りやすくなります。間違えてはいけないのは、このUSPはただの特徴ではないということ。あくまで競合商品ありきの優位性です。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

誰に、何を約束するのか?(ターゲットとタグラインの決定)

広告コピーとは、価値が最大化されるように商品を「定義付け」するもの。 この「定義付け」に特化したコピーを「タグライン」と呼びます。 タグラインは広告の一番目立つ場所に置かれる「キャッチフレーズ」より遥かに重要なものです。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

ここで初めて出てきた「タグライン」という言葉。実は小霜さんの著書のなかでも非常に重要なコンセプトとして取り上げられています。以下に少し補足します。

タグラインとは、広告の「心臓部」である

多くの人が広告コピーと聞いて思い浮かべるのは、広告の中で最も目立つ「キャッチフレーズ」かもしれません。しかし小霜さんは、それよりも遥かに重要なものが「タグライン」であると断言します

では、そのタグラインの正体とは何でしょうか。まず、広告コピーが担う最も重要な役割が以下です。

広告コピーとは、価値が最大化されるように商品を「定義付け」するもの。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

そして、この「商品の価値を最大化する定義付け」という役割に特化したコピーこそが、『タグライン』なのです

タグラインとキャッチフレーズの決定的な違い

タグラインは、単に目立つための言葉ではありません。その商品が顧客にとって「一体何なのか」「どんな価値があるのか」という本質を定義し、約束するものです。小霜さんは、その違いを次のように説明しています。

キャッチフレーズは文字通りターゲットの関心を「つかむ」役割を担いますが、ポスターであればビジュアルで、CMであれば映像や音でも「つかむ」ことはできます。 (中略) キャッチフレーズはどんどん消費されてしまいます。つかむためには鮮度が大事だからです。それに比べ、タグラインはその商品がある限り基本的には不変です。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

つまり、キャッチフレーズが「一瞬で心をつかむための言葉」であるのに対し、タグラインは「その商品が存在し続ける限り、価値の核となるブランドの本質」と言えます。キャッチコピーは場面によって変わることがあります。しかしタグラインは普遍的であるということです。

優れたタグラインの条件は「わかりやすさ」

小霜さんは、優れたタグラインの条件は、決して「カッコよさ」や「言葉の巧みさ」ではないと強調します。ソフトバンクの例を挙げ、その本質を解説しています。

(ソフトバンクのCMのキャッチフレーズ「バカは強いですよ。」に対して)この場合のタグラインは、「つながりやすさNo.1」になります。 (中略) タグラインは「わかる」ことが何より重要なんです。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

ソフトバンクの「つながりやすさNo.1」というタグラインは、一見するとただの事実であり、クリエイティブには見えないかもしれません。しかしこれは、ドコモなどの競合との比較の中で、「ソフトバンクを選ぶ価値はこれです」と極めて明確に言語化しています。この戦略的なアピールこそが、タグラインの心臓部なのです。

競合の明確化→USPの発見→タグライン

小霜さん流の思考法では、まず「競合分析」から始めます。敵を知ることで初めて、自社の「武器(USP)」が明確になるからです。

 
松方澪
小霜さんは、USPとは『競合に対しての優位性』『競合ありきじゃないと存在しない』と強調しています。
 

そして、そのUSPが最も効果を発揮するターゲットを見定め、彼らに響く「タグライン」を練り上げる。この徹底した戦略構築こそが、結果を出すための「王道の最短ルート」なのです。

顧客自身も気づいていない本音を掘り起こす「ターゲットインサイト」の見つけ方

戦略を立てる上で、小霜さんがUSPと同じくらい重要視するのが「ターゲットインサイト」、つまり「ターゲットが秘めている本音、欲求、不安」です

顧客の『言語化できていない本音・欲望』のこと。すでに言語化されている本音や欲望に訴求する場合に比べて、ターゲットインサイトに訴求するとより「強い反応」を得られます。詳細は割愛しますが「ズバリと本心を言い当てられたことによる驚き」「自分以上に自分をわかってくれると感じさせ、その瞬間から真の共感者や信頼できるアドバイザーになれる」「その訴求の新規性」などが要因です。※どうすればターゲットインサイトを発掘できるのか?その具体的な技術は今後の記事でさらに深く掘り下げていきます。

しかし、ターゲットインサイトは簡単に見つかるものではありません。どうすれば発見できるのか。小霜さんは、自身の失敗談を挙げながら、具体的なリサーチ方法を次のように示しています。

インサイトを見つけるために有用なのは、やはり少人数のグループインタビューでしょう。(『定性調査』と言い方をもします。多くの人に設問するやり方を『定量調査』と言います)ターゲットの話を聞いていると、『ああ、そんなふうに考えているのか』という、何らかの発見があるものです。僕はグループインタビューには必ず立ち会いますし、調査会社に頼まないまでも、自分のツテでターゲットに近い人たちを集めて話を聞いたりします。また、非常に簡易なやり方としては、WEBの掲示板やユーザーレビューを見るなど、ターゲットの赤裸々な会話から見つかるものもあるし、彼らのムードが掴めます。

『ここで広告コピーの本当の話をします。』(小霜和也 著)

「憶測」ではなく、「事実」に基づくべきということ。机に向かってウンウン唸るのではなく、ターゲットがいる場所へ足を運び、耳を傾け、見ているものを観察する。こうした泥臭いリサーチこそが、人の心を動かす強力なコピーを生み出すための強力な方法なのです。

深層心理に迫る「顧客との直接対話」の重要性

小霜さんの「顧客へのヒアリング」は間違いなく「実践的」かつ「強力」なアプローチです。しかし、これは私の意見ですが、注意点もあります。

顧客自身でさえ、自分が「なぜ、それを買ったのか」という本当の理由を、正確に言語化できていないことも多いということです。表面的なアンケートや形式的なインタビューだけでは、本心や本音はなかなか見えてきません。

重要なのは、顧客との対話を通じて、

  • 具体的な状況やエピソード
  • その時の感情や思考

など、解像度高く確認していくことです。

逆にあまり参考にならないのが「こんな商品があったら買いますか?」「どんな改善をしたら買いますか?」のような『想定の質問』です。想像と現実は異なります。いざ買う場面になると、想像していた時とは異なる思考や感情が生まれるもの。まだ起こっていないことを顧客に聞いてもアテになりません。

さらに、質問の回答内容だけでなく、

  • それらを語るときの表情やしぐさ
  • 言葉に詰まる瞬間

など「非言語のサイン」を注意深く観察することも重要です。

「この人は、本当は何に価値を感じているのか?」「この人自身もまだ言語化できていない本心や欲望は何か?」という深層心理を探ることができます。これは、以前、別の要約記事で取り上げた中村禎さんの言う「想像力」と、小霜さんの「ヒアリング」を統合し、1つ上の次元へと昇華させるアプローチと言えるでしょう。

参考:最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法(中村禎 著)』要約とレビュー|AI時代に必要とされる文章の書き方 >

イメージ広告とDRMの交差点に立つ、稀有な実践者の哲学

本書を読みながら私が感じたこと。それは、著者の小霜さんは「イメージ広告」の世界に身を置きながら、その思考法が極めて「ダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)」的であるという点です。

彼は、広告賞を獲るような「面白いだけのコピー」をハッキリと否定します。しかし伝説的な広告人、デビッド・オグルヴィの哲学とも深く共通しています。

If it doesn’t sell, it isn’t creative.(売れないなら、それはクリエイティブではない)

出典:David Ogilvy, “Ogilvy on Advertising”

これは私の偏見も多分にあるかもしれませんが、認知獲得に特化したテレビCMやポスターなどの「イメージ広告」の専門家たちの多くは、「賞を取る」「関係者から評価される」など、『売る』こと以外も強く意識しているような印象を受けます。

しかし小霜さんは著書のなかで一貫して「売る」こと、つまり「ビジネス課題の解決」に強いコミットを表明されています。この「結果を出す」という一点において、イメージ広告もダイレクトレスポンスも、その本質は何も変わらない。そのことを霜さんのメッセージから強く感じました。

「イメージ広告の世界でもここまで売ることにコミットする人もいるのか」冒頭でそう驚き、「霜さんはイメージ広告とダイレクトレスポンス広告の交差点に立つ稀有な存在」ページをめくるごとにそんな強い確信へと変わっていきました。

 マスとデジタルの両方とも一人でディレクションできる本物の広告人は、今の日本に小霜氏しかいない。少なくとも、私のような末端の広告運用者の言葉にも真摯に耳を傾け、ネット広告の理屈も加味してセグメントを作りターゲットを設定し、CMを作るクリエイティブ・ディレクターは、小霜氏以外にはいない。

出典:「クリエイティブとは、信じることである」と彼は言った――急いで(故人)小霜和也氏の本当の話をします。

まとめ:コピーライターは「作業者」ではない。「言葉を武器にした戦略家」である

今回、小霜さんの『ここで広告コピーの本当の話をします。』を通して、私たちが学ぶべき最も重要なこと。それは、優れた書き手とは、言葉をパズルのように入れ替える「作業者」ではなく、言葉を通して課題を解決する「戦略家」であるという極めて重要な教訓です。

戦略家とは、何の準備もなく動き始める人のことではありません。その対極にいます。入念に現状とゴールの分析を行い、重要な指標を見出し、実践可能なプロセスを明確化する。これが戦略家だと思います。

コピーライターも同じ。何も考えずに書き始めるのは論外。書く前に、

  1. 広告の目的(=モノとヒトとの新しい関係を創ること)を理解し、
  2. 競合を分析し、ターゲット(顧客)を深く理解することで、
  3. 商品の価値を最大化する「タグライン」を決定する。

この戦略的な「下準備」こそ「結果を出す」ための、そして、本来のコピーライターとしての役割をまっとうするための強力な武器となります。

 
松方澪
ビジネス上の文章を書くすべての人にとってこのプロセスは重要です。

小霜さんが提唱する「戦略的プロセス」で顧客インサイトの解像度を高め、もう1名の日本屈指のコピーライターである中村禎さんの説く「想像力」で顧客インサイトへの感度を高める。

この両輪を回すことができた時、あなたの言葉は、単なる情報から、人の心を動かし、ビジネスを動かすさせる「強力なエンジン」へと変わっていくはずです。

参考:最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法(中村禎 著)』要約とレビュー|AI時代に必要とされる文章の書き方 >

Q&A

文章を書いても結果が出ない…著者が指摘する根本的な原因は何ですか?

文章の内容以前に、「書く前」の戦略が不在であることが原因です。商品のことや競合、顧客を理解しないまま、いきなり書き始めてしまうことが、結果の出ない文章が生まれる最大の原因だと著者は指摘しています。

コピーライターが最初に犯しがちな間違いとは何ですか?

商品の具体的な情報や競合との違いを理解する前に、いきなり言葉を考え始めてしまうことです 。著者は、こうした行為を、面白いことを言うのが目的の「大喜利コピー」になってしまうと指摘し、商品を売るという広告本来の目的から外れてしまうと警告しています

著者が考える、広告の「クリエイティブ」が担うべき、本来の役割とは何ですか?

単に芸術的なものや面白いものを作ることではありません 。本書では、「モノとヒトとの新しい関係を創ること」こそが広告クリエイティブの役割だと定義されています 。その関係性の創造を通じて、「商品をいじらずに、言葉を使って商品の価値を上げる」ことがコピーライターの仕事です

広告の企画を立てる時、著者は何から始めるべきだと述べていますか?

担当する商品のことを調べる前に、まず「競合商品について調べること」から始めるべきだと述べています 。著者は孫子の兵法を引用し、敵(競合)を知ることで初めて、自分たちの本当の強み(USP)が見えてくると説明しています。

イメージ広告と、ダイレクトレスポンス広告(DRM)の違いは何ですか?

一般的に、前者はブランドイメージ向上、後者は直接的な販売を目的としますが、本書「ここで広告コピーの本当の話をします。」の著者(小霜和也さん)は、イメージ広告の世界にいながら「売れなければクリエイティブではない」という、結果にコミットするDRM的な哲学を貫いています。

本書で「キャッチフレーズより遥かに重要」だとされる「タグライン」とは何ですか?

キャッチフレーズが「一瞬で注意を引くための、消費される言葉」であるのに対し、タグラインは「その商品がある限り基本的には不変な、価値を定義し続ける言葉」です。著者は、広告の心臓部としてタグラインの方が遥かに重要だと述べています。

「USP(Unique Selling Proposition)」について、著者はどのように説明していますか?

USPとは単なる商品の特徴ではなく、「あくまで競合商品ありきの優位性」だと説明しています 。つまり、競合他社の商品と比べてどこがどう優れているのか、という相対的な視点なしにはUSPは存在しないということです

顧客の隠れた本音である「ターゲットインサイト」は、どうすれば見つかりますか?

作り手が頭の中で「こうだろう」と決めつけるのは危険だと著者は言います 。そうではなく、少人数のグループインタビューに立ち会ったり、自分の人脈(ツテ)でターゲットに近い人から話を聞いたり、WEBの掲示板やユーザーレビューを観察したりすることで、「見つけ出してくる、拾ってくるもの」だと述べています

商品の「価値」は何によって決まるのですか?

商品の価値はそれ自体に絶対的に備わっているのではなく、「モノとヒト(の置かれた状況)との関係性で決まる」と説明されています 。その具体例として、普通の水道水であっても、砂漠で遭難している人にとっては「1万円出してでも買ってくれる」ほどの価値を持つ、と述べています

コピーライターの時間の使い方として、理想的な配分はありますか?

著者は、コピーを書く作業は全体の「1割」でよく、その手前の「考える」作業、つまり競合調査やUSPの発見、ターゲット理解といったマーケティング的作業に「9割」の時間を費やすべきだと述べています

結局のところ、本書が定義する「コピーライター」とはどのような職業ですか?

クライアントの言いなりになる「御用聞き」でも、自己表現に走る「孤高のアーティスト」でもありません 。その本質は「商品をいじらずに、言葉を使って商品の価値を上げる人」であると定義されています

「ここで広告コピーの本当の話をします。」を読めば、どんなライターになれますか??

単に文章が上手いだけの「作業者」でなく、「売る」「結果を出す」を実現できるビジネス上の重要な存在になることができます。そして、著者が定義する「商品をいじらずに、言葉を使って商品の価値を上げる人」という、プロのコピーライターになるための本質的な思考法が身につきます。