その文章、そもそも読まれていないかも?文章の勝負は「見た目で9割」決まる。元新聞記者が教える「内容以前」の意外な落とし穴。

私たちはつい、「内容」さえ良ければ文章は読まれるはずだ、と思い込んでしまいます。

しかし、もしその読まれない原因が、内容以前の「ある問題」にあるとしたら?

この問いに、シンプルかつ本質的な答えを提示してくれるのが、元毎日新聞記者の根本毅氏による一冊、『文章が苦手だった元新聞記者のライティング術』です。

本書は「文章は才能ではなく技術である」と断言し、23年間の記者生活で培われた再現性の高いライティング技術を解説しています。

この記事では、本書の中から、多くの書き手が見落としがちな、しかし重要な原理について掘り下げていきます。

読者は「内容」の前に「見た目」で判断している

あなたがどれだけ素晴らしい文章を書いたとしても、読者はその内容を読む前に、「たった一つの要素」で続きを読むかどうかを一瞬で判断してしまいます。

それが文章の「見た目」です。

内容で評価される前に、まず「視覚的なデザイン」でふるいにかけられているのです。

著者の根本氏は、この事実を「『見た目が9割』どころか、『見た目が10割』」とまで表現しています。

著者が有名人や知り合いでもない限り、その本を手に取ってくれるかどうかは表紙次第です。どんなに素晴らしい内容の本でも、手に取ってもらわないことには内容を伝えることはできません。素晴らしいかどうか、評価してもらうことすらできないのです。そう考えると、「見た目が9割」どころか、「見た目が10割」だとは思いませんか?

『文章が苦手だった元新聞記者のライティング術』(根本毅 著)

 
松方澪
以前以下の記事で取り上げた「読みやすい文章の書き方」も併せて参考にしてみてください。

参考:『文章力が、最強の武器である』要約レビュー|「書けない」を才能のせいにしない、人を動かす技術

私たちが本屋で本を選ぶときを考えてみてください。 まず表紙や帯に惹かれて手に取り、パラパラとめくって文字の詰まり具合やレイアウトを確認し、「読みやすそうか」を無意識に判断します。

人は第一印象で本を手に取る

Web上の文章もまったく同じです。

改行が少なく、文字がびっしりと詰まった文章を目にした瞬間、読者は「読むのが大変そうだ」という圧迫感を覚え、内容を一行も読むことなくページを閉じてしまいます。

【事例】改行のない文章は読みにくい

書き手は自分の文章を「内容」で評価してほしいと願います。ですが、読者はその手前の「余白」や「一文の長さ」といった「視覚情報」から、その文章に時間を使う価値があるかどうかを直感的に判断してしまうのです。

 
松方澪
ダニエル・カーネマン教授の名著『ファスト&スロー』で提唱されている「システム1」も、人は内容以前に直感的な判断を下すことを科学的に示しています。「文章の書き手」はこのことを強く意識しなければなりません。

この原理を理解することは、あなたの文章が読者の心に届くための、最も重要な第一歩と言えるでしょう。

文章の「見た目」を改善する、3つの具体的な技術

具体的にどうすれば文章の「見た目」は改善されるのでしょうか。

これは決して、専門的なデザインツールを必要とするような難しい話ではありません。 読者の視覚的な負担を軽くするための、ほんの少しの配慮の問題です。

本書で紹介されている「新聞記者の技術と思考法」は、私たちのWebライティングにもそのまま応用できます。 ここでは、誰でも今日から実践できる3つの具体的な技術を紹介します。

1. 段落は、短く区切る

文章が読みにくいと感じる最大の原因の一つは、一つの段落が長すぎることです。

一つの段落が長いと読む気がうせませんか? 視覚的に圧迫感を感じるし、リズムも悪い。この長い段落を一息で読まないといけないのか、と思うと、読むのがおっくうになります。

『文章が苦手だった元新聞記者のライティング術』(根本毅 著)

書き手はつい、一つの考えをまとめきるまで改行を忘れがちです。 しかし、読者は情報の塊を目の前にすると、無意識にストレスを感じます。

目安として、スマートフォンの画面で4〜6行を超えそうになったら、一度改行を検討してみてください。 意味の区切りで意識的に段落を分けるだけで、文章は驚くほど読みやすくなります。

2. 意図的に「余白」を作る

Webライティングにおいて、余白は文章の「呼吸」のような役割を果たします。

段落と段落の間に一行の空白を入れる。 たったこれだけのことで、文字の圧迫感が和らぎ、読者は精神的な余裕を持って次の内容に進むことができます。

新聞のような紙媒体ではスペースに限りがありますが、Webの世界ではその制約はありません。

余白を贅沢に使うことは、読者の読みやすさを第一に考える「おもてなし」の心とも言えるでしょう。

 
松方澪
『「分かりやすい文章」の技術』(藤沢 晃治)では、適度な改行がある文章を「風通しのいい文章」と表現しています。個人的にはこの表現がもっともしっくりきます。

3. 漢字とひらがなのバランスを整える

文章の印象は、漢字とひらがなのバランスによっても大きく変わります。

たとえば、「御挨拶」「御連絡」「頂戴致します」のように漢字が連続すると、文章は堅苦しく、威圧的な印象を与えてしまいます。

一方で、「ごあいさつ」「ご連絡」「ちょうだいいたします」のように、適切にひらがなを交ぜると、文章はぐっと柔らかく、親しみやすい見た目になります。

特に難しい専門用語や、連続する漢字が出てきた場合は、意識的にひらがなに「ひらく」ことを検討してみてください。 この視覚的な調和への配慮が、読者が内容をスムーズに理解する手助けとなるのです。

これら3つの技術は、いずれも文章の内容そのものを変えるものではありません。 しかし、この小さな配慮の積み重ねが、読者があなたの文章を「読む」か「読まないか」の運命を分けているのです。

書き手の「完璧主義」が、読者を遠ざける

ここまで読んで、多くの方がこう思ったかもしれません。

「意外と全部あたりまえのことなんだな」と。

ですが実際にこれを実行するとなると、できていない人も多いのではないでしょうか。

なぜ、私たちはこんなにも当然に思えるようなポイントを忘れてしまうのでしょうか?どうすれば日々の執筆の中で、的確にこれらのポイントを押さえた文章を書けるようになるのでしょうか。

意外に感じるかもしれませんが、読みにくい文章が生まれる根本的な原因は、書き手の「誠実さ」や「完璧主義」にあると著者は言います。

文章を書くとき、私たちの頭の中は「伝えたい内容」で満たされています。

論理は破綻していないか。 言葉の選び方は適切か。 情報の正確性に間違いはないか。

内容のクオリティを高めようとすればするほど、私たちの意識は文章の「内部」へと深く潜っていきます。

この状態におちいると、私たちは客観的な視点を失います。 自分が今、どれだけ文字の詰まった「壁」を築いているのか、まったく見えなくなってしまうのです。

子どもの頃の私が、まさにこの状態でした。「人から良く見られたい」という意識が強く、完璧主義の傾向が強かったのでしょう。

『文章が苦手だった元新聞記者のライティング術』(根本毅 著)

「完璧な内容を書かなければならない」というプレッシャーが、かえって視野を狭くし、読者への配慮を忘れさせてしまう。

そもそも文章が読まれもしない。その原因の一端は、内容を完璧にしようと没頭するあまり、結果的に読者が最も最初に触れる「見た目」への意識が抜け落ちてしまっているだけかもしれないなのです。

この書き手特有の「思考のクセ」を自覚し、意識的に読者の視点に立つこと。 それこそが、単に情報を並べる作業から、本当に「伝わる」文章術へと進化するための、重要な分かれ道となります。

まとめ:あなたの文章はもっと読まれる可能性を秘めている

今回は、元新聞記者の根本毅氏による著書『文章が苦手だった元新聞記者のライティング術』を基に、多くの書き手が見落としている「見た目」の重要性について解説してきました。

本書の核心的なメッセージをまとめると、以下のようになります。

  • 読者は内容の前に「見た目」で判断する: 文章が読まれるかどうかは、内容以前の視覚的な印象で9割決まっている。
  • 「見た目」は具体的な技術で改善できる: 段落を短く区切る、余白を意図的に作る、漢字とひらがなのバランスを整える、といった簡単な配慮で、文章の印象は劇的に変わる。
  • 読みにくさの原因は書き手の「完璧主義」にある: 内容に集中しすぎるあまり、客観的な読者視点が抜け落ちてしまうことが、読者を遠ざける最大の原因である。

もしあなたがこれまで「頑張って書いているのに、読まれない」と感じていたのなら、次回の記事ではぜひ今回のポイントを押さえてみてください。あなたの文章は、ほんの少しの工夫で、もっと多くの人に届く可能性を秘めています。

「言葉の力」を、人生を変える武器にするために

今回ご紹介した「見た目」への配慮はとても大切なポイントですが、読者の心に文章を届けるための、ほんの入り口に過ぎません。

本当に人の心を揺さぶり、行動を促す文章術は、さらにその奥深いものです。

なぜ、ある言葉は人の心を動かし、ある言葉は誰にも届かずに消えていくのか?

その「暗号(コード)」を解き明かし、誰もが再現性のある言葉の力を手にして、不自由な現状から抜け出す。 それが、このメディア『Writer’s Code』が掲げる理念です。

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